AIが普及するに伴い、「ディープラーニング(深層学習)」や「機械学習(マシンラーニング)」といった言葉を耳にするようになりました。ディープラーニングと機械学習は、AIとはどのように結びつくのでしょうか。また、ふたつの学習にはどのような違いがあるのでしょうか。これらの意味と仕組みをわかりやすく解説します。
機械学習とは
機械学習とは、与えられた膨大なデータから、規則性や判断基準を機械が自ら学習する技術のことをいいます。
学習によって法則性やより良い方法を見つけ出し、高度な予測や判断を可能にすることを目的としています。機械が自らデータを分析して、答えを導き出す技術と言い換えることができます。
学習の方法はさまざまですが、大きく分けると「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」の3つがあります。
教師あり学習
教師あり学習は、あらかじめ準備された正解のデータがあり、それを教師として機械が学習していく方法です。
例えば、いくつかの猫の画像について「これは猫です」と正解を与えておき、さまざまな動物の画像のなかから猫の画像を抽出できるようにするのが教師あり学習です。初期の学習段階では、別の動物を猫と判別する間違いもありますが、その間違いを正すことで精度を高めていきます。最初に与える正解データが多ければ、初期から精度の高い判別が期待できます。
教師あり学習は、予測値を正解に近づけることを目的として行う方法です。予測の出し方としては、判別・識別を行う分類問題と、これまでのデータから値を予測する回帰問題があります。
学習効率が良く、人間が求める明確な答えがあるような問題に対して効果的です。
教師なし学習
教師なし学習は、データのグループ分けや基準を統合して簡略化をするための方法です。
データが持つ構造や特徴を機械が分析することで、クラスタリングと呼ばれるグループ分けや、複数の判断基準を統合して基準を簡略化する次元削減などを行います。
例えば、さまざまな動物の画像から機械にグループ分けをさせます。機械は猫と犬というように種別によって分類する可能性もあれば、大型の動物と小型の動物のように大きさで分類する可能性や、色で分類する可能性もあります。これがクラスタリングです。
次元削減では、「猫であること」「小さいこと」「顔面積に対しパーツが大きいこと」などの複数の条件から、「かわいい子猫であること」という条件の一次元情報へと基準を簡略化します。バラつきのある複数次元の条件が重なるライン付近から該当するものを選んで、より単純な次元の基準で考えることができるようにするものです。
教師なし学習では、人間が把握していない未知の分類や規則性を見つけ出すことがあり、新たな価値のある情報にたどり着く可能性を持っています。
強化学習
強化学習では、機械がとる行動について改善し強化していく仕組みを学んでいきます。機械がとった行動の結果ごとに報酬を設定し、その報酬が最大化するよう最適な行動を機械が学習する手法です。
正解・不正解ではなく、どの手法がもっとも効率良く正解にたどり着けるかといった、手法自体を強化していくために行います。
ディープラーニングとは
機械学習の活用を大きく前進させ話題となった技術として、ディープラーニングがあります。
ディープラーニングでは、機械に大量のデータを与え、共通する特徴を数値化しながら自動で抽出させます。これにより、さまざまな状況に対応した柔軟な判断が可能になります。
ここには、人間の神経細胞を模した、ニューラルネットワークと呼ばれる構造によって処理する方法が用いられています。
ニューラルネットワークによって柔軟な判断が可能に
ディープラーニングでは、人間の神経細胞(ニューロン)のつながりをモデルとした構造を通して機械が学習します。
参考:令和元年版情報通信白書 AIに関する基本的な仕組み「図表1-3-2-2 深層学習の仕組み」|総務省
このように、データのつながりを多層化(深層化)することにより、情報の複雑さに機械が対応できるようになるのが特徴です。
何層にも重なるニューラルネットワークを用いることで、段階的に特徴を抽出でき、従来の機械学習と比較して高精度かつ柔軟な分析が可能です。
特徴量を自動抽出するためには一定の環境が必要
ディープラーニングでは、特徴量(分析すべきデータの特徴を定量的に表した数値)を自動で抽出し、人間が気づかなかった判別や分類の基準を見つけ出すこともあります。
また、人間には不可能な速度で大量のデータを分析することが可能です。
参考:平成27年版情報通信白書 現在起きているICTの特徴的変化「図表6-1-1-6 ディープ・ラーニング(深層学習)のイメージ」|総務省
しかし、特徴量の自動抽出と分析を正確かつ高速で行うためには、膨大なデータとコンピューターの処理能力が必要です。一定の環境を整えたうえで、ディープラーニングの真価が発揮できます。
機械学習とディープラーニングの違い
では、機械学習とディープラーニングはどのように違うのでしょうか。また、機械学習とAI、ディープラーニングとAIは、それぞれどのようにかかわり合うのでしょうか。
AIは、人間のような思考プロセスによって判断・行動ができる知能を持った機械やプログラムの総称です。一方で機械学習やディープラーニングは、機械が学習すること自体やその方法を表します。
また、ディープラーニングは機械学習の手法のひとつであり、対比するものではありません。機械学習はAIの要素技術のひとつであり、ディープラーニングはその要素技術のなかで手法をより具体的にしたものです。
参考:平成元年版情報通信白書 AIに関する基本的な仕組み「図表1-3-2-1 AI・機械学習・深層学習の関係」|総務省
このように、AI、機械学習、ディープラーニングは、それぞれが別の技術として使われているのではありません。AIに必要な技術のひとつに機械学習があり、機械学習の手法のひとつにディープラーニングがあります。
ディープラーニングの実現によって、従来の機械学習では不可能だった複雑さに対応できるようになり、AIが大きく進化したのです。
ディープラーニングの活用事例
ディープラーニングが応用されたAI技術は、次のような分野で活用されています。
画像認識
画像や動画を入力し、そこに含まれる情報から必要な部分を抜き出してデータ化して、AIによって判別や判断を行います。
例えば、文字や顔などの特徴を認識して個人を検出する場合や、コンベアを流れる農作物から色や形の異なるものを判別する場合などに使われています。
音声認識
音声を認識し、AIによってその特徴の違いを判別したり、文字としてテキストに出力したりといったことが可能です。
スマートフォンやスマートスピーカー、カーナビなどに搭載されている音声入力機能に応用されています。
自動運転
自動運転技術は世界各国で取り組まれており、次世代の自動車に必要な技術のひとつといわれています。
自動運転では、一時停止の標識や車線の認識、歩行者の検出などの多くの情報を、瞬時に処理して司令を出す必要があります。これらの大量でさまざまなパターンがある情報から判断を行うためには、ディープラーニングとAIが欠かせません。
農業分野
これまで農業では、蓄積されたデータを参考にしながら、人間が経験や勘をもとに農作物の育成条件を判断するのが一般的でした。
こういった農業分野でも、AIの活用が進んでいます。気温や湿度、CO2濃度などの情報から最適な育成条件を判断し、日照量や土壌水分を調整するスマート農場にはディープラーニングとAIが活用されています。
製造分野
製造分野はAIの活用が期待されている代表的な分野ともいえます。
例えば、ロボットの可動範囲のような危険区域へ作業者が侵入した場合にアラームを鳴らし、ロボットが停止する仕組みは安全のために必要です。また、標準作業ではない方法での作業を行った場合に光によって通知し、標準化を進める仕組みも導入されています。
このように、すでに多くの場所でAIとディープラーニングが活用されています。
医療分野
がん研究にAIとディープラーニングが活用されています。AIによって自動的にがん細胞を検出する仕組みによって、これまで人間の目では見落とされていた可能性のあるがん細胞を正確に見つけ出します。
がん治療で重要とされる早期発見において、大きな効果があると期待されています。
ディープラーニングによってAI活用は進化していく
ディープラーニングと機械学習について、それぞれの意味や相関関係、特徴などを解説しました。 ディープラーニングの実現は、AIが飛躍的に進化を遂げるきっかけとなりました。今ではさまざまな分野で使われており、AIが導入された機器の利便性を高めています。機械学習、とりわけディープラーニングはより高度な学習方法の確立によってさらに進化していき、これからも発展していくことが予想されます。